敏腕社長に拾われました。

それにしても永田さん、虎之助から悪い虫を追い払いたいだけだって言ってたけれど、なんで私? この場合の悪い虫って言うのは、虎之助の財産や名誉を狙ってる女のことだよね? 私、虎之助の財産も名誉も、全然狙ってないんですけど?

虎之助と私の間に男と女の関係はないってちゃんと言ったはずなのに、なんだか勝手に喧嘩を振られてるみたいで腑に落ちない。

イライラした気持ちのまま本社棟に入ると、胡桃ちゃんが足を止める。

「瞳ちゃん、おはよう」

声を掛けた相手は、あの受付の女の子。胡桃ちゃんに声を掛けられると、「あ、おはよう」と受付嬢よろしく可愛らしい笑顔を見せた。

でも受付の女の子は胡桃ちゃんの後ろに私の姿を見つけると、その笑顔が一転。『またアンタ?』とでも言いたそうな目を私に向ける。

おぉ~怖い。永田さんといい受付の子といい、何で朝からそんな目をするのよ。今日が初出勤だというのに、テンションがた落ち。

こんなことになるなら、あのまま虎之助の車で出勤したほうがマシだったかもしれない。もし一緒に出勤したところを誰かに見られたとしても、『途中で拾われた』とか言い訳できたんだし。

「失敗した」

思わず声に出して言うと、「何が?」とすかさずツッコむ胡桃ちゃん。

何がと聞かれても答えられない私は「なんでもないです」とだけ言い残し、その場から離れた。



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