敏腕社長に拾われました。
出社時間もピークにさしかかり、エレベーターの中は満杯状態。でもまだ秘書室の人にしか会っていない私は、知った顔がないことにホッと安堵の息をつく。
この本社棟は、一階がエントランスホールと受付。その奥に社員食堂やフリースペースが設けてあり、社員の憩いの場となっているみたい。
二階から四階は経理部や営業部、人事部や総務部や業務部など様々な部署が入っていて、五階にある経営企画室と連携を取り、日夜業務に励んでいる……と宮口さんに教えてもらった。
経営企画室は社長直轄の組織で、私たち秘書室の面々も関わることが多いらしい。とは言え経営企画室が何をするところなのかは、まだよく分かっていない。
これから覚えることは山ほどありそうだ……と重いため息をつくと、エレベーターがポーンと音を鳴らし五階に到着したことを知らてくれる。
エレベーターから降り秘書室に向かうと、もう一台のエレベーターから降りてきた胡桃ちゃんとバッタリ。
「智乃ちゃん、なんで先に行っちゃうのぉ」
口をへの字して文句をいう胡桃ちゃんに、『あそこに居たくなかったから』と心の中で呟く。
なにが悲しくて、朝からあらぬ疑いをかけられないといけないわけ? 毎朝受付の前を通らなきゃいけないと思うだけで、憂鬱になっちゃうよ。
でも本当の試練はここから。
秘書室のドアの前に立つと、大きく深呼吸してから身なりを正す。
そんな私を見て胡桃ちゃんは不思議そうな顔をしているけれど、そんなの構ってられない。『この先は戦場だ、気合入れていくよ!』そう心に刻むと、意を決して秘書室のドアを叩いた。