敏腕社長に拾われました。
「おはようございます」
私が挨拶をすると、中にいた永田さんと宮口さんが同時に振り向く。それだけでも体中を緊張が駆け巡るというのに、『なんだ、来たのかよ』というやっぱり冷めた永田さんの目に撃沈。
ってダメダメ。こんなことで負けてたら、秘書室でやっていけないよ!
自分で自分自身に発破をかけてみても、右を向けば宮口さんがこれまた怖い顔で立っていてヤル気が萎えてしまう。
「おはよう。ところでふたりとも、どこで油を売ってたの?」
コーヒーカップを手にしていた宮口さんがそれを永田さんのデスクに置くと、コツコツとヒールを鳴らして近づいてきた。
どこで油を売ってたの?……ってことは、どこかで私たちを目撃してたってこと? ウソ、どこで?
胡桃ちゃんの方を振り向けば、彼女も同じことを思ったのか『ヤバい』とでも言いたそうな顔をして舌をペロッと出した。でもそんなことでは動じない胡桃ちゃんは、宮口さんの前に立つとニッコリ笑って見せる。
「宮口さん、おはようございます。朝からそんな怒ってると、ここにシワ寄っちゃいますよ~」
と、宮口さんの眉間に手を伸ばした。
これにはさすがの私も驚いて、胡桃ちゃんの手を掴むとその手をグッと引っ張った。
「く、胡桃ちゃん、仕事の準備しよ。ね?」
ちょっと勘弁してよ。出勤初日のしかも朝っぱらから、宮口さんまで機嫌悪くさせるのはやめてくれる?
そのまま胡桃ちゃんをデスクまで連れて行くと、私もその隣の自分のデスクに鞄を置いた。