敏腕社長に拾われました。
虎之助は最後に私のデスクに来ると、身をかがめて私に顔を寄せた。
「智乃、ちゃんと出勤できたね。道に迷わないか心配したよ」
何を言う! 一本外の道に出ればすぐ会社ってところで降ろしたくせに。これ、わざと言ってるよね?
それにここは強敵がいっぱいの秘書室。虎之助と無駄に関われば、自分の命が危ない。
自分の命は自分で守らなくっちゃ。
もう一度デスクに突っ伏して永田さんや宮口さんから自分の姿が見えないようにすると、虎之助に囁いた。
「もういいから、あっちに行って。必要以上に私に構わないでよ」
「え~、なんで?」
私が小さい声で囁いたからか、虎之助も私の耳元で囁く。
なんでって言われても、ちょっと考えたら分かりそうなもんじゃない?
でも虎之助は本当に分からないのか、顔をグイグイ近くに寄せてくる。
ちょ、ちょっと虎之助、顔が近すぎるんじゃありません?
頬が触れ合う距離に虎之助の顔があって、吐息が首筋に吹きかかるとなんとも言えない感覚に襲われる。
おい、私の心臓。なんで急に鼓動が速くなるのよ!
しかもそれだけでは治まらず、顔も火照ってくるわ呼吸もうまくできなくなるわで、私の体は大騒ぎ。