敏腕社長に拾われました。
●苦しい時の“虎”頼み
「さてと、俺もそろそろ仕事するかな。胡桃ちゃん、コーヒー頼む」
虎之助の声色が変わり、秘書室の空気もピリッと一転。普段と違う虎之助が現れると、この人ってやっぱり社長なんだと実感する。
「社長、社長室にお戻り下さい。午後の打ち合わせを致しますので」
永田さんも、もう私のことなんか眼中にない様子で。資料を手にすると、社長室に繋がるドアを開けた。
「ああ、わかった。宮口さん、智乃のことよろしく頼むね」
虎之助はそう言い残すと、社長室へと消えていく。
仕事で忙しいのに、私なんかのことも気にしてくれる虎之助って……。
虎之助が消えていったドアをボーッと眺めていると、ゴホンと宮口さんの咳払い。
おっと、いけないいけない。これから仕事っていうときに、私ったら何ボーッとしてるのよ。
クルッと方向転換すると、宮口さんのところに向かう。
「今日から、よろしくお願いします」
何事も挨拶が肝心。とばかりに頭を下げると、宮口さんの大きなため息が耳に届く。
「よろしくなんてされたくないけど、社長のご命令とあらばお世話しないわけにもいかないわね」
そう言って、目の前にドンと出されたのはたくさんの封筒。
「これは?」
「社長宛の会合などの案内状。あとこっちは礼状をお返しする方々のリスト。あなた、字は綺麗かしら?」
宮口さんはそう言うと、一枚の用紙を私に差し出した。