敏腕社長に拾われました。
「ここに、名前を書いてみて」
あぁ、私がどんな字を書くのかテストってことね。
宮口さんからボールペンを受け取ると、そこにスラスラと名前を書いた。
実は私、小さい頃から書道を習っていて、字には自信があったりする。前の会社でも『顔に似合わず字は上手いね』なんて言われたりした。顔に似合わずってとこは余分だけど。
その紙を宮口さんに返すと、ちらっと上目遣いに私を見て一言。
「合格」
わあ、やったね!
って何喜んでるの、私。
でも宮口さんに褒められたような気がして、つい喜んでしまった。
「何うれしそうな顔してるのよ、まったく。はい、これ。うちは全部手書きで返信してるから、よろしく」
よろしく? よろしくって、これだけの量を私ひとりでやれと?
褒められたと思って喜ぶんじゃなかった。この人は鬼だ、正真正銘の鬼!
封筒を抱え自分のデスクに戻ると、隣の席の胡桃ちゃんがスッと近寄ってきた。
「私、この仕事させてもらえなかったんだ。智乃ちゃん、スゴい」
「え、そうなの?」
「だって、これ見て」
と胡桃ちゃんから渡された資料を見て納得。そこにはちっちゃな丸っこい字で書かれた、胡桃ちゃんの文字。これはこれで可愛いんだけど、仕事のしかも礼状ともなれば胡桃ちゃんに任せられないのもわかる気がする。
「でも宮口さんがこの仕事を他人に任せるなんて、ちょっと驚きかも~」
胡桃ちゃんはそう言うと、自分の席に戻っていった。