敏腕社長に拾われました。
でもやっぱり経理と営業しか経験のない私には、いくらマニュアルがあっても初めての作業は分からないことだらけ。書いては消し書いては消しを繰り返していた。
「字が上手いだけじゃ、この仕事はできないわよ」
なんて宮口さんにお小言を言われながらの仕事は、思ってた以上に大変で。つい音を上げてしまいそうになる。
それでもなんとかお礼状を書き続けていると、リストの中に高城常務の名前を見つけて顔が勝手にほころぶんだ。
「楽しい時間だったな」
高級料亭でのランチを思い出してそう小さく漏らすと、手が軽快に動き出す。
マニュアルには個人的なことは書かないようにと念押しがされていたけれど、どうしてもお礼が言いたくて。お礼文の中に、自分の気持ちを少しだけ織り交ぜた。それを綺麗に折りたたみ、封筒の中に入れる。
よし、これでオッケー。
高城常務へのお礼状が出来上がると、少しだけ気分が軽くなっていることに気づく。この気持ちのまま次の作業に取り掛かろうとした時、正午を知らせる音楽が秘書室に流れた。
「もうお昼なんだ」
時間も忘れて仕事に没頭してたなんて……。
そんな自分にちょっと驚いているクスッと笑みを漏らしていると、無防備な耳元に突然ふっと風を感じ飛び上がって振り返る。
「虎之助!?」
いきなりなことにおもわず『虎之助』と呼んでしまい、これはヤバイと慌てて宮口さんの方を見ると……。
案の定、得も言われぬ顔でこっちを見ていた。