敏腕社長に拾われました。
ここはひとまず、宮口さんからの痛くて冷たい視線を回避しなくては。
奢ってもらいたい気持ちをグッとこらえると、虎之助に向き合い笑顔を見せた。
「すみません、社長。今日は胡桃ちゃんとランチの約束をしていまして」
「へ?」
とっさに出てしまったデマカセに、約束をしていない胡桃ちゃんは素っ頓狂な声を出す。そんな胡桃ちゃんに『私の話に合わせて!』と言わんばかりに顔でアピールすると、私の気持ちを感じ取ってくれたのか胡桃ちゃんが小さく頷いた。
「そうなんですよ~。智乃ちゃん、入社のお祝いに奢ってくれるって言うんです~」
「へ?」
胡桃ちゃんから返ってきた言葉に、今度はこっちがおかしな声を出してしまう。
胡桃ちゃん、私ひと言も奢るなんて言ってませんけど? それに入社のお祝いだったら、胡桃ちゃんが奢ってくれるっていうのが普通じゃない?
そうは思っても、急な作り話に付き合ってもらっているのはこっちの方で強く出れない。これはこのまま、胡桃ちゃんの話に合わせた方が良さそうだ。
「ということなので、すみません」
小さくペコリと頭を下げると、すっと近寄った虎之助に耳打ちされる。
「智乃、お金もないのによく奢れるね」
「あっ」
そうだった。私まだ、一文無しじゃない!
パッと顔を上げてると、ニヤッと口元に笑いを浮かべる虎之助と目が合った。