敏腕社長に拾われました。

ポケットから手を出すと残っている親子丼を大急ぎでかっ込み、それを流しこむように水を飲むと椅子から立ち上がる。

「胡桃ちゃん、ごめん。ちょっと先に行くね。社長、永田さん、お先に失礼します」

日替わりランチを食べ始めた虎之助は、私の言葉に左手を軽く振り上げた。それを確認すると、もう一度頭を下げてからその場を後にする。

そして一目散に向ったのは、五階の女子トイレ。

ここアメリア製菓本舗は女性社員も多いからか、女子トイレの中はかなり快適に作られている。トイレはもちろんのこと、パウダールームも個室っぽく仕切ってあって、ちょっとした休憩スペースとしても利用できるようになっていた。

そのひとつを陣取ると、ポケットからおもむろにスマホを取り出す。もちろんディスプレイに呼び出したのは、浩輔からのメール。

別に何かを期待して見るわけじゃない。まだ五日しか経っていないとはいえ、もう彼になんの未練もないし恋心も消えている。

ただ一緒に暮らしていたアパートにはまだ私の荷物も残っていて、いづれは連絡しなくちゃいけないと思っていた。だったら浩輔からのメールは、絶好の機会。

そう思ってメールを確認してみると、そこには……。


差出人 浩輔
件名  智乃へ♡
渡したいものがあるから、今晩八時にアパートまで来てほしい。いや、絶対に来いよ。

一体何なの、このメール。



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