敏腕社長に拾われました。

なんだろう、これ?

それを手にしようとして、宮口さんの声に手を止める。

「じゃあ後はよろしく。長坂さん、戸締まり忘れないように」

「はーい」
胡桃ちゃんが間延びした返事をすると、宮口さんは呆れたように肩を竦ませながら部屋を出て行った。

「智乃ちゃん、定時で上がる?」

「うん、そのつもりだけど。胡桃ちゃんは?」

「もちろん定時だよ」

だよね。と思ったことはナイショ。

まだやることはあるけれど、今日中に片付けなくちゃいけない仕事じゃない。それに今晩は浩輔のところに行くつもり。ここから浩輔のアパートまで、どう早く見積もっても一時間半はかかる。電車もバスも帰宅ラッシュ時に重なるから、それ以上かかるかもしれない。だったら定時に上がって、余裕を持って行くほうが無難だ。

まだ終業時間まで五分ほどあるけれど、デスクの上を片付け始める。と、封筒の存在を思い出してそれを手に取った。

裏を見ても、何も書いてない。誰からなのかわからないけれど、私のデスクにあるんだから、私宛の封筒だよね?

とにかく中を確認してみようと、封筒の口を開ける。

「何、これ……」

封筒の中には一万円札がいっぱい。それとメモみたいな紙が一枚入っていた。それを取り出すと、そこには綺麗な字でこう書いてあった。



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