敏腕社長に拾われました。

智乃へ

昼間は悪かった。これ当面の小遣い十万円。もしその金額で足りなかったら、遠慮なく言ってくれ。                         虎之助


虎之助から自分宛ての手紙を読んで、呆然と立ち尽くす。

虎之助の金銭感覚って、どうなっちゃってるの? 小遣いに十万円? しかも足りなかったら言えって!?

あり得ない……。

普段銀行から必要な金額しか下ろさない私は、そんな大金持ち歩いたことがない。十万円も鞄に入ってると思ったら、歩き方がおかしい挙動不審者になってしまいそう。

でも素直に感謝もしている。

だっていい歳をした大人が、一銭もなしでいるのは心もとない。よく考えれば今朝だって、どうやって電車に乗るつもりだったんだろうと、自分の考えのなさに力なく椅子に座り込んだ。

永田さんと宮口さんがいないのをいいことに、デスクに突っ伏すと虎之助からの手紙を読み返す。以外と綺麗な字を書くことに驚きつつも、虎之助が私のことを気にしてくれていたことに嬉しさを隠せない。

まだついさっきまで秘書室にいたのに、もう虎之助に会いたいと思う私はどうかしてる?

そしてこの気持ちがどういうことなのか、気づいてしまったみたい……。

顔は熱を帯びてきて、心臓の鼓動は速さを増す。

ヤバい。好き好きモード、スイッチオン? でも前回それで失敗しているし、ここは慎重にことを進めないと。



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