敏腕社長に拾われました。

まずは気持ちを落ち着けて。大きく深呼吸をすると、手紙をたたんで封筒の中にしまう。

とにかく今日は浩輔のアパートに行って、荷物を引き取ってくる。これで浩輔との関係は、綺麗さっぱり終わり。虎之助のことは、その後ゆっくり考えるとして……。

終業時間を知らせる音楽が鳴ると、胡桃ちゃんへの挨拶もそぞろに秘書室を出た。


まだ外は明るい。定時で帰宅する人たちの流れに乗ると、私も足早に駅へと向かう。

あ、そうだ。虎之助にメールしておかないと。

ポケットからスマホを取り出すと、短い文章で虎之助にメールを送る。


《今からアパートに荷物を取りに行ってきます。あと、お小遣いありがとう》


まだ会食は始まってないと思うけれど、虎之助見てくれるかな。浩輔のところへ行くときは俺が一緒に行くって言ってたから、メール見たら怒るかも。でも本当に荷物を取りに行くだけで、すぐに帰るんだし。浩輔だって、自分から捨てた女なんて顔も見たくないはず。

だから大丈夫と勝手に決めると、スマホを鞄にしまい正面に見えてきた駅まで意気揚々と歩いて行く。


「隣町、渋川の駅までは……五百円かあ」

駅に到着するとブツブツ言いながら目的の駅までの料金表を確認し、切符を買って改札を抜けるとホームに停まっていた電車に乗り込んだ。

浩輔に会うのは五日ぶり。いくらあんな風に追い出されたとしても、普通だったらまだ愛情が残っていてもおかしくない日数。一緒に住んでいたアパートまで来てほしいなんて言われたら、寄りが戻せるといいなぁなんて尻尾フリフリ彼の元へと行きそうなものなのに。

今の私は浩輔よりも、虎之助のことで頭がいっぱい。



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