敏腕社長に拾われました。

渋川駅はこの街のメインの駅だけあって、降りる人も多い。人の流れに逆らわず改札を出ると、バスターミナルの四番へと急いだ。

「あ、バスいる!」

六時七時台はバスの本数も多いけれど、一台逃せば十分は待たなくちゃいけない。普段なら十分なんて大した時間じゃないけれど、今日の私には長い。

アパートからさっさと荷物を引き取って、一刻も早く虎之助と暮らすマンションに帰らなければ。

逸る気持ちを抑えつつバスに乗り込むと、出発時間ギリギリだったのかバスはすぐに動き出した。

浩輔と二年も暮らした街のメイン通りを、バスは軽快に走って行く。あちらこちらに馴染みの店もあって、楽しかった思い出がよみがえる。

浩輔と別れることに、なんの未練もない。浩輔に対する私の気持ちってこんなものだったの?と思うほど、さばさばしている。五日前までは大好きだったのに、人の心の移り変わりというものは思った以上に早いものなんだと実感。

そしてバスはその後も順調に進み、運行時間通りに最寄りのバス停に到着した。

目の前には、五日前虎之助に拾われた公園。大きな時計台は七時半を指している。

ちょっと早すぎたかも。

でもいつもの浩輔なら、この時間には仕事から帰ってきてるはず。どこかで時間を潰すのも面倒だし、このまま行っても大丈夫だよね?



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