敏腕社長に拾われました。
恐怖さえ感じて浩輔の腕に抱かれたままでいると、そのまま背中を押され部屋の中に入れられてしまう。
五日前と何も変わってない部屋。置いてあるもの何ひとつ動かされた形跡はないのに、まるで違う部屋に見えてくる。
呆然と立つ尽くす私を置いて浩輔は先に部屋に入ると、一番奥の部屋から手招きをして私を呼んだ。
「智乃、そんなところで何突っ立ってんの? 早くこっちに来なよ。飯、冷めちゃうよ」
飯? 冷めちゃう? 何言ってるの?
二年間も一緒に暮らしていて、浩輔が料理をしてくれたことなんて一度もない。コンビニかどこかで買ってきたものをチンッでもしたのかと、靴を脱いで奥の部屋へと急ぐ。そして目の前に広がっている光景に唖然。
「これ、どうしたの?」
「うん? 今日は頑張って、俺がハンバーグ作ってみましたー」
どうだ!と言わんばかりに、手を広げてみせる浩輔。
嘘でしょ。料理をするのは女の役目とか何とか言っちゃって、食パン一枚だって焼いてくれたことのない浩輔がハンバーグ?
お世辞にも上手とはいえないゴテゴテのハンバーグにポテトサラダ。味噌汁は大きく切られた具がいっぱいで汁気なし。“ザ・男飯!”と言うような夕飯に、私は目をそらした。
今更こんなことされても全然嬉しくない。食べ物で私の機嫌を取ろうなんて、そうは問屋が卸さないんだから。
早くここから帰りたい……。
そう思っているのに、私のそんな気持ちに気づかない浩輔は、私の後ろに立つと両肩に手を乗せてその場に座らせてしまう。