敏腕社長に拾われました。
「やめてっ!!」
私はバカだ。二年間もこんな人を好きだったなんて、本当に大バカだ。
嫌だ嫌だと体を大きく揺らしても、大の大人が身体の上にいては振り落とすこともできない。
最悪だ。浩輔と、こんなことになるなんて……。
浩輔に涙なんか見せたくないのに、恐怖で体は震え我慢していた涙が頬を伝う。
「とら……のすけ」
自然と漏れた、大好きな人の名前。
虎之助の言うことを聞いていれば、こんなことにはならなかったのに。
もしここで浩輔に無理やり抱かれてしまったら、もう虎之助のところには帰れない。
私も虎之助もいい歳だから、お互い経験がないわけではないけれど、こんな汚れた体じゃ……。
悔しくて唇を噛み締めていると浩輔の顔が耳元に近づく気配に体がブルッと震え、無意識に大声で叫んでしまう。
「虎之助―!!」
まさかそんな大きな声を出すと思っていなかった浩輔は、私の声に少し怯む。と同時に、玄関からバンッとけたたましい音が響いた。
「智乃!!」
嘘……。
耳に届いた声に、一瞬戸惑う。だってその声の持ち主は今大事な会食中であって、こんなところにいるはずがない。
じゃあ聞き間違い? ううん、そんなはずない。まだたったの五日しかいないけれど、彼の声を聞き間違えることなんて絶対にない。