敏腕社長に拾われました。

「……ったく。おい、そこの男。俺のこと知りたいんだったよな? じゃあこれっ」

とベッドの上に投げ捨てたのは、虎之助の名刺。

「アメリア製菓本舗、取締役社長!?」

その名刺を見た浩輔が、素っ頓狂な声を上げた。

「そう。智乃の荷物は全部ダンボールに詰めて、そこへ俺宛に送れ。そうだなぁ、三日以内にだ。わかったな?」

驚きで声をなくしている浩輔は、頭を縦に何度も振る。

「あ、それともうひとつ。今後一切、智乃には近づくな。これは命令だ。もし俺の命令を破ったらどうなるか……。おまえもバカじゃないならわかるよな?」

その言い方は、あくまでも優しく。でもその裏には、有無を言わさないような怖さが潜んでいた。

これ、一種の脅し……だよね?

私にヒドいことをしようとしたけれど、ちょっとだけ浩輔が気の毒になってしまう。

腰が抜けたように呆然と座り込む浩輔を残し、アパートを出た。パンプスを履いた脚は虎之助に抱かれ支えられていても、まだなんとなく力が入らないのかふらふらする。

「なあ、靴脱いで」

「え?」

今から外を歩くのに、なんで脱げ? 裸足で歩けとでも?

でも危ないところを助けてもらったばかりで文句も言えない私は、虎之助の言うことを素直に聞いた。



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