敏腕社長に拾われました。
コンクリートの廊下は、裸足の足には少し冷たい。
虎之助がどうして靴を脱げといったのかわからないまま歩き出そうとすると、私の前にしゃがみこんだ虎之助がパンプスを右手で掴み、そのまま私の膝裏に腕を伸ばすといとも簡単に体を抱え上げる。
「うわぁっ!!」
五日前にもされた“お姫様抱っこ”に、またもうろたえる。虎之助との顔の距離も近いし、こんなに体が密着してたら、バクバク鳴ってる心臓の音が聞こえちゃいそうで恥ずかしい。
「あ、あの、下ろしてもらっても……」
「却下。このまま車まで運ぶ」
「はい」
わかりました。あまり機嫌の良くない虎之助に、反抗するのはとっても危険。ここはおとなしくしていなさいと、どこかの誰かが警告する。
荷物を取りに行く時は一緒にいくって言ってくれたのに、一人できちゃったから怒ってるんだよね、きっと。
あれ? でもどうして、虎之助が浩輔のアパートを知ってるわけ? 私、教えたっけ?
虎之助に拾われたのはすぐそこの公園だから、この辺りに住んでることはわかっても、ピンポイントでここだとはわからなはず。
うん、怪しい……。
それでも今は助けに来てくれたことに感謝して、黙ったまま虎之助の腕に抱かれていた。