敏腕社長に拾われました。
○色は思案の外というけれど…
虎之助は私を車の助手席に乗せると、相変わらず黙ったまま車を走らせる。
この沈黙、だんだん辛くなってきた。
浩輔に襲われそうになって震えていた体は落ち着きを取り戻しつつあるけれど、今は違う意味で落ち着かない。
大好きな虎之助が隣にいるというのに、その彼は未だ怒った顔のまま。絶対的に悪いのは私だけど、いつまでもそんな顔して無視することないのに……。
涙が出そうになって俯き、膝にある手をギュッと握り締めると、虎之助の大きな手が私の右手を包み込んだ。
「なんで、ひとりで行った?」
虎之助がポツリと呟く。それは怒ってるというより悲しそうにも聞こえる。
「それは……。虎之助は仕事だったから、迷惑かけちゃいけないと思って」
「今日行くっていう選択肢しかなかったわけ? 別に今日じゃなくても、俺が時間あるときでもよかっただろ?」
「それはそうだけど、浩輔とのことは一日でも早く終わらせたかったから」
「それでひとりで行って、まんまと襲われましたとさ、ちゃんちゃん。って、智乃ってバカ?」
ヒドい……。そんな言い方しなくてもいいのに。
虎之助のことを好きって気づいちゃったから、浩輔とのことをきっちり終わらせたい。そして、新しい恋をスタートさせたいっていう私の気持ちはどうすればよかったの?
そんな私も知らないくせに一方的に責められているようで、悲しくなってきてしまう。