敏腕社長に拾われました。
「虎之助、ごめんなさい」
謝って済むことじゃないけれど、今の私にはそれしかできなくて。頭を深く下げると、私の右手を包み込んでいた虎之助の左手が頭の上に移動した。
「何謝ってんのか知らないけど、会食なら永田と朱音さんが上手くやってくれてるから大丈夫。それに俺、取引相手の上役さんたちからの信頼、めちゃくちゃ厚いから」
ポンポン。頭を二回撫でると顎に手を下ろし、私の顔をクイッと上げた。
「目ウルウルさせて、泣きそうな顔しちゃって。ホント、智乃って可愛いよね」
わ、わ、私が可愛いですってっ!? 今のは聞き間違い?
虎之助の意表をついた言葉に、ボンッと一瞬で顔が熱くなる。まさに沸騰状態で、熱くて目眩を起こしそう。
「はは、今度は顔が真っ赤。うん……でもこれは、かなりヤバい」
虎之助はそう言うと私の顎から手を離し、信号で停まっていた車を走らせた。
何がヤバいの? あぁもしかして、私のことを“可愛い”って言ったこと間違いだったとか?
こんなこと言うつもりじゃなかったのに……って、後悔の真っ最中?
そうでないことを願いたいけれど、なんとなく当たっていそうで意気消沈。
窓の外を見れば、電車から見た夜景と同じ景色が広がっている。
電車の中から見た時はあんなに綺麗だったのに、じんわり涙で滲んだ目ではぼんやり歪んで見えた。