敏腕社長に拾われました。

いくら私が恋に一直線な女でも、そう簡単に落ちないって。まだ浩輔に捨てられてから、数時間しか経ってないのに……。

あ、そうだった。私、捨てられたんだった。

急に現実に襲われて、不安な気持ちからボストンバッグをギュッと抱え込む。

「ところでそのバック。旅行にでも行くんだったの?」

「はぁ、まぁ、そんなとこで……」

『ついさっき捨てられました』とはやっぱり言い難くて、適当に言葉を濁す。

それにしても、私は今後どうしたらいいんだろう。

この人がなんで私を車に乘せたかは分からないけれど、一番近くの駅まで送ってもらうくらいいいよね?

でもこれはきっと、神様のお導きに違いない。一文無しとお金持ちの出会い。キスもさせてあげたし、ちょっとくらい頼っちゃったりする?

革張りのシートに姿勢正しく座り直し、小さくコホンと咳払いをひとつすると、ゆっくり彼のことを見据えた。

「あのぉ~」

「虎之助」

「へ? 虎之助?」

「そう、久住虎之助。俺の名前」

なんで今、名前?

キョトンとする私に、久住虎之助が言葉を続ける。




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