敏腕社長に拾われました。

「ちゃんと名前で呼んでね。じゃないと俺、返事しないから」

そう言ってハンドルを握り直すと、「ふふふ~ん」と鼻歌を歌い始める。

何だそれ! 人のことを有無も言わせず拉致っておいて、その言い草はないでしょ!

しかも虎之助? 虎って、あの『ガオー』の虎? 

今どき虎之助なんて、そんな時代劇っぽい名前……。

「なあ、今笑ったよね? それって虎之助に反応して笑ったとか?」

久住虎之助の声が、一オクターブ下がる。

あ、ヤバい。怒らせた?と思ったけれど、時すでに遅し。笑いのツボを押されてしまった私は、次から次へと沸き上がってくる笑いを止めることができなかった。

「だ、だって、虎之助って! 『ガオー、キミを食べちゃうぞ』っとか、言って、そうで。うん、お似合い。あなたに、ピッタリの名前」

息をヒーヒーさせながらそこまで言い終えると、おもむろに久住虎之助の顔を見た。

げっ! 横顔だけでも怒ってるって分かる。ちょっと、いやかなり言い過ぎちゃった?

でも虎之助って……。

頭の中に昔動物園で見たトラの姿が映し出され、私に『ガオー』と牙を剥く。それがまた笑いを誘い、ププッと吹き出してしまった。

「キミ、俺の名前を笑うなんて、結構いい度胸してるよね。そっか、そっかぁ。まあ今後が楽しみだよね」

「今度? 楽しみ?」

私と久住虎之助に、今後なんてあるんだろうか。今日お金を借りたとしたら返すために今後はあるんだろうけど、それも一瞬で終わりじゃない?



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