敏腕社長に拾われました。
●嫌よ嫌よも好き…なんだな
「智乃、旨い! これ、なんて食べもん?」
「それは“にゅうめん”といって、そうめんを温かい汁で煮込んだ料理って言えばいいのかな。のどごしが良くて、夜食にいいでしょ?」
何かないかとダイニングボードの中を探していたら、木箱に入ったそうめんを発見。スタンダードに冷たいそうめんもいいけれど、夜遅くに食べるのならとにゅうめんを作ってみた。
受験生の時に母が作ってくれた懐かしい味。
母のにゅうめんには、鶏肉、油揚げ、ほうれん草が入っていたけれど、今日は材料が足らなくて卵とじとシンプルなもの。それでも虎之助が美味しそうに食べてくれるから、自然と顔がほころんでしまう。
「智乃も食べろよ。冷めるよ」
「あ、うん。いただきます」
浩輔のアパートから帰るときは全然食べる気が起こらなかったのに、時間が経ったからかそれとも虎之助がいてくれるからか、それはいとも簡単に喉を通り過ぎて行く。
そしてふたりともよっぽどお腹が空いていたと見えて、あっという間ににゅうめんを平らげた。
「虎之助には、ちょっと足りなかったかな?」
「いいや、もうあとは寝るだけだしこれで十分。ごちそうさま」
虎之助は椅子から立ち上がると、膨れたお腹を擦ってみせた。