敏腕社長に拾われました。
「逃げるな。だから最初に悪いと思ったけどって、ちゃんと言っただろ」
「何よ、開き直る気? 言えばいいって問題じゃないと思うんだけど」
これだから、無駄にお金のある人には困ってしまう。
だからって、そんなことされてたと知っても、虎之助のことが好きな気持ちには変わりなく。しょうがないなと肩を落とすと、虎之助の目を覗きこんだ。
「調べたのは、私のことが気になってってことでOK?」
「もちろんだよ。たぶん、一目惚れ?」
一目惚れ……。またしても顔がだらしなくなりそうで、キュッと引き締める。
「そ、それで?」
冷静を装うと、聞く体制を整えた。
「まずは智乃のミスがどんなものだったのかを聞いた。部署ごとのミスは、余程のものでない限り俺のところまではすぐに上がってこない。大体が事後報告だ。まあ話をよく聞いてみると、そこまで大したミスじゃなかった。永田は多大な迷惑って言ってたけどな」
虎之助はそう言って苦笑する。永田さんはどうも、何事も大げさに言うらしい。
あの時のミスは、私の発注ミス。私の営業努力が実って大口の契約を交わしたまでは良かったのだけど、それを物流部に発注するときに私が商品を間違えてしまった。
発注するときは物流部に発注書が届くまでに、何人かの目を通る。だから誰かが気づいていればミスは防げたと、同僚たちはかばってくれたけれど。課長は自分もそこに一枚絡んでいるからか、全部私が悪いとまくしたてた。
でもミスはミス。私のせいで会社にたくさんのお金を使わせることになってしまったし、虎之助の会社にも予定の日に納品できないという迷惑をかけてしまったことには違いない。
その後虎之助の会社には、今後も取引を続けてもらうために何度も足を運んだ。きっとその時、虎之助に姿を見られたんだろう。