敏腕社長に拾われました。

しかしあんな大笑いしたあとで、『お金貸してください』とは言いにくい。なんであのタイミングで笑わせるかなぁ。

頼むべきか、止めとくべきか……。う~ん、悩む。

どうするべきかひとり葛藤していると、浩輔と暮らしていた街の隣町で車が停まった。

「さ、降りて。旅行行く前に、ちょっと俺んち寄ってくれる?」

そう言われて窓から外を見れば、目の前に素敵なマンションが立っている。

いやこれは億ションか?

慌てて車から降りると、その高さに目を見張る。

「す、すごい……」

「最上階ってわけにはいかなかったけど、俺んち上のほうだから結構いい景色が見れるよ」

そう言って久住虎之助は私の手を掴むと、ずんずんと歩き出す。

実家は平屋だし、浩輔と暮らしていたアパートは一階。地べたにくっついてしか生活したことのない私にとって、マンションの高層階に足を踏み入れるのは初めての経験。

エントランスを抜けエレベーターに乗り込むと、その箱は音もなく上がっていく。

「ねえキミ、今ドキドキしてるでしょ?」

「え? あっ!? いつの間に、手、繋いでるんですか!!」

「え~、今気づいたの。もう結構前から繋いでるんだけど」

え、そうなの? 全然気付かなかった。だってこんなマンションに入ることができるのなんて、もう一生ないかもしれない。そりゃドキドキもするってもんだ。



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