敏腕社長に拾われました。
でも私の心の中なんて知る由もない胡桃ちゃんは、目をキラキラ輝かせるとうわさ話の好きな女の子に大変身。
「これ、受付の瞳ちゃん情報なんですけどね。瞳ちゃん、この前永田さんと飲みに行ったらしく、その時に永田さんが話してくれたって。私が思うに、社長には婚約者がいるんじゃないかと」
「そう……」
宮口さんポツッとつぶやくと、私の腕を掴む。
「え? どうしたんですか、宮口さん!?」
「長坂さん、ちょっとここお願い」
胡桃ちゃんにそう告げると、彼女の返事も聞かないうちに私を連れて秘書室を出た。
「ちょ、ちょっと宮口さん! 胡桃ちゃん、ひとりしちゃっていいんですか?」
「そんなに時間はかからない。だから黙ってついてきて」
宮口さんは歩く足を速めると、五階フロアの一番奥の部屋の前で止まる。そこは普段打ち合わせや個別の会議に使う部屋で、プレートを『使用中』にスライドさせると中へ入った。
「そこに座って」
宮口さんに言われるまま、椅子に腰掛ける。
一体何が始まるの? また私、なにか失敗でもした?
思い当たるフシはないけれど。私のことだ、きっと宮口さんの怒りに触れるようなことを何処かでしでかしたに違いない。
俯きビクビクしていると、宮口さんが前の席に座った気配に顔を上げた。