敏腕社長に拾われました。

あの人……。宮口さんは、今間違いなくそう言った。『あの人って誰?』そう聞きたいのに、なんとなく躊躇してしまう。

虎之助のことを信用していないわけじゃない。全国に展開している会社の社長だし、仕事上で付き合う人の中に、女性がいても全然おかしくない。私が言うのも何だけれど、虎之助は誰が見てもイケメンだと思うし、仕事中の虎之助は紳士的で優しいから好意を持たれることもあるだろう。

そう言えば虎之助、女に引っ叩かれることなんてしょっちゅうなんて言ってたし。私と出会う前までは、結構遊んでたのかな。まあ私だって浩輔と付き合って同棲してたわけだし、昔の恋愛についてどうこう言うつもりはないけれど。

永田さん情報だって言うし、ちょっと心配になってきてしまった。

「宮口さん。やっぱり社長って、モテるんですか?」

「当たり前でしょ! 有名企業の社長であれだけのイケメンよ。モテないはずないじゃない。かくゆう私も告白して……」

「え?」

宮口さん今、告白してって言った?

凝視する私にいたたまれなくなったのか、宮口さんは小さく咳払いをすると椅子に座り直す。

「もう終わった話よ。とっくに気持ちの整理もついてるし、今は社長のことを素敵な上司と思ってるだけ。でも勘違いしないでね。あなたのこと、彼女として認めたわけじゃないから」

なんて口では言ってるけれど、その顔は穏やかに笑っていて説得力に欠ける。



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