敏腕社長に拾われました。

「虎之助、永田さんとふたりで行ってきて。なんか今日は食欲がなくて」

そんなの、嘘八百。もうお腹空き過ぎて、背中とおへそがくっつくちょっと手前状態。

でもそんな顔は微塵も見せずに、虎之助にニコッと笑ってみせた。

「そうか、わかった。じゃあ帰りに、何か軽く食べれるものを買ってきてやる。風呂に入ってのんびりしてろ」

そう言って私の頭を撫でると、虎之助は玄関に向って歩き出した。その後をソファーから立ち上がった永田さんが続き、私の横で足を止めた。

「腹が減ってない……ねぇ。まあいい。社長とふたり、積もる話もあったからな」

私の耳元で囁く声は、意地悪極まりない。

やっぱり私のこと、全部見透かしてる。

悔しさに唇を噛んでも、今の私にはどう反論していいのかわからない。

「おい、永田何してる? 早く行くぞ」

今ここでなにが起こっているのかなんて何も知らない虎之助は、当たり前のように永田さんを呼ぶ。

「はい社長、今行きます」

虎之助の呼ぶ声にパッと背筋を伸ばした永田さんは、もういつもの永田さんに戻っていて。でも私の顔をチラッと見ては、薄ら笑いを浮かべた。

「じゃあ」

なにが『じゃあ』よ。すっごくムカつくんですけど……。



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