敏腕社長に拾われました。
マンションに帰っても考えてしまうのは、昼間の虎之助の態度と“彼女”のこと。
会社のパソコンでこっそり調べたところ、その“彼女”の名前は本間詩織。三十一歳、独身。本間ワイナリーの二代目社長で、これまた敏腕社長らしい。
『父親が細々と営んでいたワイン工房を、通信販売や地元の食材を使ったビストロやカフェも展開するまでにし、そこで自社ブランドのワインを使った料理も提供するなど、ワインというものをもっと知ってもらうために様々なことにチャレンジしている』と、本間ワイナリーのホームページに書いてあった。
社長プロフィール欄には、『男性顔負けの経営力なのに、女性らしい一面も持ち合わせている』と生花をしてる写真が載っていて、その美しさに思わず目を奪われてしまう。
もし本当にこの人が“彼女”なら、私に勝ち目はない。頭良くないし、綺麗じゃないし、経営力もないし、生花もできない。あるのは元気と笑顔、あとは料理と掃除が好きなことぐらい。お嫁さんには向いてるかもしれないけれど、虎之助のパートナーとしてはいかがなものか。
こんなことひとりでクヨクヨ考えてないで、虎之助に聞いてしまえば早いのだけど。昼間虎之助の動揺する姿を見たからか、うまく目が合わせられないでいる。
虎之助はシャワーを浴びていて、バスルームから聞こえていたシャワーの音が聞こえなくなると、急に落ち着かなくなる。普通にしようと思えば思うほど、虎之助に対する態度がぎこちなくなってしまって。
「こんなふうで、週末までもつかしら……」
力ない言葉が、口から漏れた。