敏腕社長に拾われました。
「俺に結婚の話があるのはホント。相手は、智乃はもう知ってるみたいだけど、本間ワイナリーの社長本間詩織さん。永田のやつがエラく気に入ってて、持ってきた話なんだけどさ」
「永田さんが……」
やっぱり。受付の瞳ちゃんと飲んだ時に話したっていうのも納得。
「詩織さんは良い人だし、会社同士の取引もあるから悪い話じゃないと思うんだけど……」
詩織さんって呼んでるんだ。しかも良い人だって。それの加えて会社関係も良好なら言うことなし。虎之助にとって詩織さんは、最良の相手というわけだ。
そんな女性と私を比べたら、虎之助の結婚相手には詩織さんのほうがいいって、永田さんじゃなくても誰だってそう言うに決まってる。
現に虎之助だって『悪い話じゃない』って言ってるし、それってもしかして……。
「智乃、話は最後まで聞くように。学校で習わなかった?」
虎之助はいつの間にか俯きがちになっていた私の顔を覗きこむと、おでこをピンッと弾いた。
「虎之助、痛い!」
顔を上げて弾かれたおでこを擦ると、虎之助睨みつける。
「智乃に睨まれても、全然怖くないんだけど。それにデコピンされたのだって、智乃の自業自得だから」
「なんで自業自得なのよ。言ってる意味、全然分かんない!」
好き勝手なこと言ってくれちゃって。虎之助には今の私の気持ちなんて、少しも分かってない。
「もういい、話聞きたくない。先に寝る」
こんなこと言いたかったんじゃないけれど、売り言葉に買い言葉。虎之助が自業自得なんて言うから、本心じゃない言葉が出てしまった。