敏腕社長に拾われました。
「智乃、いいかげんにしないと俺も怒るよ」
なんで虎之助が怒るわけ?
虎之助の言葉を無視して立ち上がろうとしたけれど、そううまくはいかなくて。
「俺は……」
突然大きな声を出した虎之助に驚くと、その場から動けなくなってしまう。
「俺は、結婚相手は人に決められたくないって思ってる」
虎之助の口から放たれた言葉に小さく頷く。
「永田はね俺の父親、いわゆる前社長に恩があって、誰よりも会社のことを考えてる男でさ。この先の会社の発展のためにも、俺には会社のためになる女性と結婚してほしいって思ってるんだよ」
そうだったんだ。だとしたら、やっぱり私の存在は目の上のたんこぶ。鬱陶しいに決まってる。
「永田の気持ちは素直にありがたいと思う。思うけど、やっぱり俺は自分で決めた女性と結婚したい。そいつと家族になって子供ができて、その家族のために一生懸命働く。俺が一生懸命働けば、イコール、会社の発展へと繋がる。そう思わないか?」
自信に満ちた顔をしてそう言う虎之助は、キラキラ輝いて見えた。
自分で決めた女性──
その言葉を言った時の、虎之助の目が頭から離れない。その目にはしっかりと私の姿が映しだされていて、私を捉えて離さない。
「そして俺が結婚したいと思う女性は、智乃、おまえしかいない」
虎之助に抱きしめられると、瞳から自然と涙が零れた。