敏腕社長に拾われました。
●遠くの親より近くの男
高層マンションの20階。角部屋のリビングからの景色は、それはそれはもうため息の出るような素晴らしい眺めで。『あそこにあるのは中央公園?』とか『あんな遠くのビル群まで見えるんだ~』とか、ひとりではしゃいで疲れました。
はい……。
「はい、ジュース。あ、コーヒーの方がよかった?」
「いえ、ジュースがよかったです。ありがとうございます」
はしゃぎすぎて熱くなった体には、冷たいジュースがありがたい。ストローをくわえると、それを一気に飲み干す。
カラッカラに乾いた喉と体に、ゆっくりと水分が行き渡る。ホッと息をつくと、ソファーに体を沈めた。
「どう、ちょっとは落ち着いた? なんかすっごく疲れて見えたけど? 旅行なんて嘘でしょ?」
次から次へと続く質問に、顔を伏せる。
やっぱり下手な嘘はバレるよね。でもあの時は、ああ言うしか他になくて。ここは素直に話をして、早くここを出よう。
そう決めると伏せていた顔を上げ、目の前に座っている久住虎之助を見た。