敏腕社長に拾われました。
「永田は悪いやつじゃないけど、会社と俺のことになると見境なくなるからな。もう何度も彼女とは結婚できないと伝えたが、首を縦に振ってはもらえなかった」
「そうなんだ。なかなか手強いね」
相手は、あの永田さんだ。『はい、そうですか』とはいかないに決まってる。
なんて真面目な話をしているのは、何故か真面目な話には似つかわない寝室のベッドの上。
結局虎之助は理性を保つことができなくて、やっぱり指だけでは足りなかった彼に食べられてしまった。そして今は、ミネラルウォーターで喉の渇きを潤しながら話の続きをしている最中。
「だから今週末開催される畠山乳業のパーティーで、智乃と同伴することを決めた」
「それって、なにか意味があるの?」
「ああ、いわゆる既成事実ってやつ。高城常務たちの前にドレスアップした智乃をエスコートしていって、婚約者だと紹介する」
「婚約者!?」
婚約者っていえば、結婚の約束をした人ってことだよね? 結婚したいと思う女性は私だけとは言われたけど、それだけでもう婚約者?
「何、嫌なの?」
虎之助は腕枕している私をムギュッと抱き寄せると、不機嫌そうに顔を近づけた。
「嫌とかそういうことじゃなくって。プロポ……」
プロポーズしてもらってないって伝えようとして、最後をゴニョゴニョ誤魔化した。
だってそうでしょ。プロポーズといえば女性にとって大切な儀式で、ロマンチックなシチュエーションで……というのに憧れるわけで。
まあそんな贅沢なこと言えるような立場じゃないんだけど。
ちろっと上目遣いで虎之助を見れば、不機嫌な顔はどこにも見当たらなくて。そこにあるのは優しく微笑む大好きな虎之助の顔と、「バカなやつ」と呟く柔らかそうな唇。
その唇が私のおでこにチュッとキスを落とすと、照れくさくて目を閉じた。