敏腕社長に拾われました。
○一寸先は闇…なのか
「智乃、準備できたか?」
「今行く!」
虎之助の呼びかけにジャケットを羽織ると、慌てて部屋を飛び出す。
「どう、かな?」
玄関で待っていた虎之助の前まで行くと、クルッと一回転してみせた。
今日のパーティーのために虎之助が買ってくれたのは、ネイビーのワンピースとジャケットのセット。パーティーと言っても今日はビジネスパーティーだからと、あまり派手じゃないものを選んでみたけれど……。
「買いに行った時と髪型が違うからかな、なんかイメージが違って見える」
「変?」
「全然。むしろ今日のほうがいいっていうか。うん、似合って……」
何故か虎之助はそう言うと、頭を掻きながら目線を逸らしてしまった。
「虎之助?」
様子がちょっとおかしい。あまり似合ってないとか?
心配になってどうしたのかと虎之助に近づくと、顔を覗き込む。
「悪い。イケナイ妄想した」
「イケナイ妄想?」
「すっごく似合ってるけど、なんかいつもより色っぽいから脱がせたいなって」
虎之助はスッと腕を伸ばすと、私の首筋に触れた。それが妙に官能的で、体がビクッと反応すると勝手に熱を帯びてくる。
「虎之助のバカ。もうそろそろ出かけないと、パーティーに間に合わなくなっちゃうけど……」
まさか今から……とか言わないよね?
虎之助の指がまだ肌に触れていて動けないでいると、苦笑した虎之助がその指を引っ込めた。
「ごめん。でもこんなに綺麗だと、心配になるな」
「何言ってるの」
それはこっちのセリフ。今日の虎之助はスーツ姿はいつもと変わりないのに、センスのいいネクタイやポケットチーフの選び方が上品でいつにも増してカッコいい。
「じゃあ、行くか?」
「うん」
さり気なく出された左手に右手を重ねると、その手を虎之助がギュッと握る。お互い顔を見合わせると、笑顔でマンションを出た。