敏腕社長に拾われました。

今日の畠山乳業の創立記念パーティーは一流ホテルで開催されると聞いていて、否応なしに緊張は高まっていく。普段なら車の中でもよく喋る私も、今日は別人のように無口になっていた。

「智乃、今からそんなガチガチじゃ身がもたないぞ。ほら、リラックスリラックス」

虎之助は運転しながらも左腕を伸ばしてきて、私の右手を握ると指先で手の甲を撫でてくれる。そんなちょっとした優しさが嬉しくて、緊張もゆっくりほぐれていく。

「ありがとう。今日は優しいね?」

握られている手をギュッと握り返せば、虎之助もそれに応じてくれる。

「今日は? いつもでしょ。智乃はわかってないね」

「そう? 虎之助のことは、よくわかってきてると思うけど?」

笑いながらそう言うと、信号で停まった虎之助が私を見つめた。

「やっぱり智乃は、笑顔がいい」

「何よ急に。褒めたって、何も出ないよ?」

「いいよ。智乃がずっと俺のそばにさえいてくれれば、何もいらない」

「へ?」

虎之助の、突然の甘い言葉に面食らう。

どうしちゃった虎之助? どっかで頭でもぶつけた? 熱でもあるんじゃない?

右腕を伸ばして、虎之助のおでこに手を当ててみる。

「熱は……ないみたいね」

「何してる?」

「え? だって虎之助が急に変なコト言うから、心配になって」

私は至極真面目にそう言ったのに、虎之助はため息をついてしらけ顔。



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