敏腕社長に拾われました。

確かにカッコいい横顔だとは思ったけれど、どうしてバレる? っていうか、自分で自分のことをカッコいいなんて言っちゃう虎之助は、どうかと思うけど。

なんて。そんな虎之助のことが大好きな私は、もっとどうかしてるのか?

虎之助に見られないように、ぺろっと舌を出して照れ笑い。

車はパーティー会場のホテルに着くと、そのまま地下の駐車場へと入っていく。指示がされていたのか虎之助は迷うことなく地下駐車場に車を停め降りると、助手席側に回ってドアを開けてくれる。

「到着しましたよ、お姫様」

そう言って手を差し伸べる姿は、私がお姫様なら虎之助はまさしく王子様。

照れながらもその手に自分の手を重ねると、力強く引っ張られて虎之助の体にぶつかった。

「ごめん」

「なんで謝るの? こうなるのを想定して、わざと引っ張ったのに」

爽やかな笑顔を振りまいて私を抱きしめると、当たり前のように頬にキスをする。

「虎之助、こんなところで……」

「こんなところだから、誰も見てない。ホントは唇にしたいところなんだけど、綺麗に塗ってある口紅が取れちゃうと思って我慢した」

そっか、ここは地下駐車場。薄暗いから、誰も見てないか。だったら口紅のことなんて気にしないで、キス、してもいいのに……。

……って、私のバカバカ! これから高城常務に招待された創立記念パーティーに出席するというのに、なんてこと考えてるのよ! パーティーと言ったって、これもれっきとした仕事であって遊びじゃないのに。

邪念を振り払うように深呼吸すると、虎之助から離れる。そして虎之助に「行くよ」と言うと、パンプスを鳴らしながら歩き出す。

「智乃。そっちじゃなくて、こっち」

そう言って私の腕を引く虎之助の顔は笑っていて、耳元に顔を寄せると「唇へのキスは帰ってからな」とつぶやいた。



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