敏腕社長に拾われました。

「すみません、なんでもないです」

虎之助と永田さんに向って謝ると、宮口さんの後ろにさっと隠れる。

だってまさか今日この場所に本間詩織さんが来ているなんて、これっぽっちも思ってなかったから驚いてしまって。
でもよく考えてみれば、本間ワイナリーも畠山乳業とは取引があったはず。今日のパーティーに招待されていないほうが、おかしいというものだ。

「その驚きようだと、社長からは何も聞いてなかったのね?」

「はい、全く。でも本間さんの話は聞きました。永田さんが推してることも。何度も彼女とは結婚できないって伝えてもダメだったって」

「おい、そこのふたり。そこで何してる?」

宮口さんとコソコソ話をしていると、永田さんに呼ばれてドキリと身体が跳ねる。

「すみません、今行きます」

でも宮口さんは私と違いさっと表情を変えると、冷静沈着に返事をした。

さすが、宮口さん。今の私には、到底真似できないワザだ。

「宮口さん、すみませんでした」

「いいわ。さあ、気を引き締めていきましょう」

「はい」

初めて会った頃はキツくて意地悪な人だと思っていた宮口さんも、今では私にとって無くてはならない存在。仕事に関しては真面目で厳しい人だから、今でも時々叱られることはあるけれど、それは愛情あってのこと。

虎之助に宮口さん、このふたりがいるんだからきっと大丈夫。永田さんでも本間さんでも、どーんと来やがれ!

手に拳を握ると、先に歩き出した宮口さんの後を追った。



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