敏腕社長に拾われました。
「あの、久住さん」
「虎之助」
ああ、やっぱりね。たぶんそう来ると思ってたけど、いきなり他人を呼び捨てもどうかと思うよ。
でも目の前の彼の顔を見る限り、虎之助って呼ばないと相手にしてもらえなそうだ。
「じゃあ、虎之助さん」
「“さん”はいらない」
「虎之助!」
「はい、なんでしょう?」
あぁ~いちいち面倒くさい! “さん”が付いていようがなかろうが、どっちでもいいじゃない! こっちは焦ってるっていうのに、虎之助は満足そうに笑ってこっちを見てるし。それでもここは、低姿勢で。
「あの初対面で申し訳ないんですけど」
「……初対面。まあいいや。で?」
何、今の間は。今朝会ったばかりだから、初対面でしょ? おかしな人。でも今は、そんな言葉を浴びせられない。
「お金。貸していただけないでしょうか?」
「は? お金? 俺がキミに?」
「はい」
そりゃ初対面の見知らぬ女に、『お金貸して』なんて言われたら、そういう反応するよね。うん、分かる、分かるよ。でも今は、藁を掴む思いなんだよ。それに、これも何かの縁じゃない? 見知らぬ女でも、路頭に迷って餓死でもしたら後味悪いよね?