敏腕社長に拾われました。
場所をパウダールーム内にある休憩所らしきところに移すと、二人同時に腰を下ろす。詩織さんとふたりきりになるなんて予想もしていなかった私は、気持ちの整理がつかなくて落ち着きなく俯いた。
「急に、ごめんなさい。でもどうしても智乃さん、あなたと話がしたくて」
話……。それは間違いなく、虎之助のことだよね? 出来れば今は、何も話したくない。
そう言おうとして顔を上げたけれど、詩織さんの顔を見ると何も言えなくなってしまった。
泣いてる?
詩織さんの綺麗な目から、大粒の涙が一粒こぼれ落ちた。
その涙が何を意味するのか容易に想像できてしまい、いたたまれない気持ちになる。出来ればこの場から一刻も早く立ち去りたい……そう思っても、詩織さんの目が悲しそうに揺れていて、それを躊躇してしまう。
「智乃さんは……」
突然話しだした詩織さんの声に、身体がビクッと跳ねる。
「は、はい」
「虎之助さんの婚約者と聞きましたが、それは本当ですか?」
やっぱり……。
すぐに核心を突かれ、どう答えるべきか迷ってしまう。
ちゃんとしたプロポーズもまだだし、正式に婚約をしたわけではない。けれど虎之助も私も気持ちは同じで、これからもずっとそばにいたいと思っている。
「はい」
自分の気持ちに素直になって答えると、詩織さんはゆっくり目を閉じると息を吐いた。