敏腕社長に拾われました。
詩織さんの姿が見えなくなると緊張の糸が途切れたのか、全身から力が抜けてガクッと項垂れる。
「どんな選択肢……か」
虎之助のことは、誰よりも想っている。ううん、想っているなんて言葉では足りないくらい、彼のことを愛している。
でも詩織さんが言ったように、虎之助の将来のことを考えたら?
虎之助は好きな人と一緒になって家族が出来れば、それが頑張る理由になるって言っていたけれど。それだけで会社が大きくなったり、地位が高くなったりするわけない。大きな後ろ盾があったほうが、色んな意味で良いに決まってる。
そしてその問題は、私が虎之助の前からいなくなれば解決する……。
「よくわかんないや」
ボソッと呟いた言葉は、すぐに跡形もなく消えて。その後出てくるのは、ため息ばかり。
こんな気持ちのまま会場に戻って、どんな顔して虎之助の前に行けばいいの? 笑顔なんて到底無理。だけど今日のパーティーは仕事の一環なのだから、そんなこと言ってられないよね?
止めどなく出てくるため息を、深く呼吸をして落ち着かす。
「とにかく一度、戻らなきゃ」
気怠い体を奮い立たせなんとか立ち上がると、パウダールームの鏡の前に移動する。鏡に映った自分の顔を見て、おもわず苦笑してしまう。
「思ってたより元気そう」
少しだけ乱れていた髪を直すと、私も会場へと向った。