敏腕社長に拾われました。

すると会場手前のところで、腕を組み壁にもたれている虎之助が目に入った。難しそうな顔をしている虎之助に声を掛けられずにいると、そんな私に気づいた虎之助が歩み寄ってきた。

「遅いから心配した。マジで体調不良じゃないよな?」

今さっき詩織さんに色々言われたばかりの私は、虎之助が心配そうな顔をするだけで涙が出そうになる。でもここで涙を見せれば、何かあったと虎之助にバレてしまう。

それだけはダメ。ここは絶対に堪えなくちゃ。

虎之助に悟られないように笑顔を作ると、少しだけ視線を外す。

「ごめんね。全然元気だから心配しないで。履きなれてないパンプスだから、ちょっと足が痛くなっちゃって休んでただけ」

我ながらよく出来た嘘に、合わせるように足を擦って見せた。

「そうなのか? 歩くのがしんどいなら、おぶってやるけど?」

本気なのか冗談なのかわからないけれど、虎之助はおんぶをする体勢を作ると満面の笑みを浮かべた。

「そ、そんなの恥ずかしいからいいよ」

「遠慮しなくていいぞ?」

こんな風にふざけ合うのは、いつものことなのに。心から楽しめないのは、詩織さんのことが引っかかっているから。

どうしてもぎこちなくなってしまい、動きを止めた虎之助が怪訝そうな顔をした。

「さっきのこと、気にしてるのか?」

虎之助はパーティー会場でのことを言っているらしく、申し訳ないと言わんばかりの顔に変えると頭を掻いた。



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