敏腕社長に拾われました。
気にしてる気にしてないなんて言葉では、簡単に片付けられないくらい気にしてる。だから行きたくもないトイレに逃げ込んで、ひとりため息を付いていたわけだし。
だからと言って『はい、気にしてます』なんて、言える勇気もない。
「智乃には悪いと思ったけど、詩織さんもいたあの場で智乃を婚約者と紹介することはできなかった。それによく考えたら、今日は畠山乳業の創立記念パーティーに来てんだよな。俺の個人的な話はするべきじゃないと思い直してさ」
そう言う虎之助の気持ちはよく分かる。高城常務から話を振られ、そこに詩織さんが現れてしまったら何も言えなくなるのも頷ける。あのタイミングで詩織さんが現れたのも、永田さんの策略なんだろう。
だから私も、何も言えずにいるけれど。
心の何処かで『本当にそれだけ?』と、虎之助のことを疑う自分がいる。
詩織さんの『あなたさえ現れなければ、私たちは結ばれていた』と言った言葉が、何故か気になって仕方がない。
「虎之助の気持ちはわかってるから大丈夫。それより早く戻らないと、また永田さんに怒られちゃう」
何事もなかったかのようにそう言うと、会場に向って歩き出す。
自分で自分がよくわからない。今、私は、どんな顔をしてる?
泣きそうな気持ちを唇を噛んで堪えると、虎之助に顔を見られないように歩く足を速めた。