敏腕社長に拾われました。
●会うは別れの始め…
今日は、畠山乳業の創立記念パーティー翌週の水曜日。虎之助は月曜日から、永田さんと出張に出かけている。
パーティーの翌日も接待ゴルフに出かけていて、顔を合わせたのはほんの少しだけ。
普段なら一緒にいる時間が少ないと、寂しいと思ったりもしたけれど。今回ばかりはホッとしたというか、かえって顔を合わせる時間が少ないほうがありがたかった。
虎之助の顔を見れば、嫌でも詩織さんのことを考えてしまう。今は虎之助がいないというのに、時々詩織さんから言われたことを思い出してはひとりで落ち込んで。その考えはいつしか悪い方へ悪い方へと向かっていって、最後に行き着くところはいつも『私はいないほうがいい?』だ。
それでも会社にいるときは仕事に追われ、嫌なことを考えなくても済むから少し楽。でもさすがは宮口さんで、私のちょっとした変化を見つけたのかなんだかいつになく優しくて。普段なら絶対に言わないことばかり私に言ってくるから、ちょっと変な気分というか楽しかったりする。
「早瀬さん、何か飲む?」
「え? あ、いや、今は特にいらないですけど……」
「そう? 喉が渇いたら、遠慮なく言って」
「は、はい……」
先週のパーティーで詩織さんが現れたときのことを宮口さんも知っているから、かなり気を使ってくれているんだと思うけれど。
いくら宮口さんがそう言ってくれても、先輩に飲み物を用意してもらうとかできないし、そんなことしてもらったら後が怖い。
でも宮口さんの気持ちはとても嬉しくて、会社ではそれなりに元気で過ごせていたんだけど……。