敏腕社長に拾われました。

「ごちそうさま」

マンションのリビングで簡単な朝食を済ますと、自分の部屋に戻って荷物をまとめる。当分の着替えと最低限の必需品を大きめの鞄に詰め込むと、会社の最寄り駅でコインロッカーにその鞄を預けた。

「これでよしっと」

身軽になっていつもの出勤スタイルに戻ると、普段と変わらない顔をして会社に向った。

「おはようございます」

秘書室に入ると、これまた普段と変わらず宮口さんが定位置に座っていた。

今日はいつもより早く出勤したのに……。

『宮口さんって、どれだけ仕事が好きなの?』なんて心の中でクスッと笑ったのに、そんな私の心の中を読んだのか宮口さんが不服そうな顔をした。

「おはよう。ねえ早瀬さん、今私のこと仕事の虫とか思ったでしょ?」

「え? えぇ!? い、いやいや。そ、そんなこと、滅相もない!」

どこをどうしたらそこまで動揺するのと言わんばかりに噛みまくり、心の中は見え見え。そんなあたふたしている私を見て、宮口さんは呆れたようにため息をついた。

「社長が帰ってくるからって、浮かれてるんじゃない?」

「浮かれてるなんて……」

あるわけないじゃない。

虎之助が出張から帰ってくる日は、いつも心待ちにしていた。一週間近くも顔を見れない時なんかは、寂しくて仕方なかった。

だからいつもなら、宮口さんの言う通り浮かれていたかもしれないけれど。

今日は、そんな気分にはなれない。



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