敏腕社長に拾われました。
でもここは会社の秘書室。虎之助と永田さんがいなくても、仕事は山のようにある。十分もすると胡桃ちゃんも出社してきて、いつもの日常が始まった。
仕事が始まってしまえば、有難いことに虎之助のことを考える暇はない。任されている仕事をひとつひとつ丁寧に、脇目もふらずこなしていった。
「智乃ちゃん、今日のお昼はどうする?」
胡桃ちゃんに声を掛けられて、いつの間にか十二時を過ぎていたことに気づく。
「胡桃ちゃん、ありがとう。でも今やってる仕事、キリの良い所まで終わってからにするよ」
「そうですか、わかりました。じゃあ宮口さん、一緒に行きませんか?」
「じゃあって、仕方なくみたいに言わないでくれる。しょうがないわね、長坂さんの奢りってことで行きましょう」
どんなときでも一枚上手な宮口さんがそう言うと、胡桃ちゃんの「え~」という悲痛な声が秘書室に響く。
そんなふたりのやりとりを見ていると、なんだか微笑ましくて笑いがこみ上げた。
「ホント、宮口さんと胡桃ちゃんは仲良しですね。仕事早めに切り上げて私も追いかけるんで、日替わりランチ頼んでおいて下さい」
「誰が仲良しですって? わかったから、あなたも早く来なさいよ」
宮口さんは苦笑しながらそう言うと、胡桃ちゃんに腕を引かれ部屋から出て行った。
秘書室にひとりになると、大きく息をつく。
本当は昼ごはんも食べずに、ひたすら仕事をするつもりでいたけれど。
「ひとりでいるよりはいい……か」
デスクの上に広がっていた資料を簡単に片付けると、引き出しから財布を取り出してふたりの後を追った。