敏腕社長に拾われました。

「智乃、何してるの? 今さらそんなところに隠れても、バレバレだって」

虎之助の呆れた声に、涙が出そうになる。

「だって、虎之助怒ってるじゃない」

「なんだ、わかってるんだ。じゃあ話は早い。さっさと出てこいよ」

虎之助ってバカ? なんでわざわざ、怒ってる人の前にノコノコと出て行かなきゃいけないの?

カーテンにしがみつき、絶対に出ていくもんかと無視を決め込む。

だけどそんな私の頑なな気持ちを、詩織さんはあっという間に崩してしまう。

「智乃さん。ワイン、飲まないの?」

あ、ワイン。飲みたい……。

でもこのままここに隠れていたら、詩織さんが用意してくれたワインが飲めないじゃない。

ここはひとまず休戦ということで、カーテンの縁からゆっくり顔を出した。

「ワイン、飲みたいです」

虎之助の顔は見ないで詩織さんにそう言うと、何もなかったように歩いて席に座った。

「なあ、智乃。俺になにかいうことはないの?」

虎之助は、呆れたようにため息をつく。

そんなこと言われたって、何を言っても今の虎之助は怒るに決まってる。怒られるようなことをしてるのは私だから、仕方ないのはわかってるんだけど……。

でも何から言っていいものかと迷って黙っていると、詩織さんが助け舟を出してくれた。



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