敏腕社長に拾われました。
「虎之助さん、あなたの心の中には大切な人がいる。それをわかっていて、私は自分の立場を利用してあなたに近づいた。でも……」
詩織さんはそこで一度言葉を止めると、虎之助の顔を真剣な眼差しで見つめた。
「あなたのことを好きな気持ちは本当でした」
「はい」
虎之助も詩織さんは気持ちはわかっていたんだろう。ひと言だけそう答えると、しっかりと頷いてみせた。
こんなとき、私はどんな顔をすればいいんだろう。大人な二人の雰囲気に圧倒されて、息をするのがやっと。しかも詩織さん、今度は私の方を向いてニコリと微笑んでるし……。
その笑顔が何を意味するのか。
私はゴクリとつばを飲み込むと、少し引きつりながらも笑顔を返す。
「あのぉ、何か?」
「虎之助さんのことが好きだったのは本当。そして、今でも好きなのも本当よ。なんてね」
「はぁ……って、えぇっ!? あ、あの、それって……」
どういうこと? これってもしかして、またも宣戦布告?
「わ、私も虎之助のことが大好きです! ライバルが詩織さんでも、彼だけは絶対に渡しません!!」
詩織さんの魅惑の笑みの意味がようやくわかって私も応戦すると、苦笑している虎之助が目に入る。
「虎之助、笑ってるってどういうことよ!」
「どうもこうもないでしょ。ホント智乃は、やっぱりまだまだおこちゃまだよね」
「おこちゃまって……」
虎之助のあんまりの言い草にその後もギャーギャー言っていると、詩織さんがポツリとひと言。
「可愛い」