敏腕社長に拾われました。
●惚れてしまえば、あばたもえくぼ
「虎之助さん、これからも仕事のパートナーとしてよろしくお願いします」
詩織さんが右手を差し出すと、その手を虎之助が強く握りしめた。
「こちらこそ。詩織さん、頼りにしてますよ」
ふたりは握手を交わすと、しばしお互いをたたえ合った。
さっきまで食事をしていた時とは違う会社経営者としての顔としてのやり取りに、改めて感心してしまう。
詩織さんはこれからも、仕事として虎之助のことを支えていくのは間違いないだろう。それは私ごときの人間が口を挟むことじゃないし、恋愛感情にかまけてそこまで首を突っ込むほどバカな女じゃない。の、つもり……。
だって相手は、あの才色兼備の詩織さんだよ。『今でも好きなのも本当。なんてね』なんてサラッと言い放っちゃうし、虎之助と仕事会ってるってわかっててもヤキモチのひとつやふたつは妬くものでしょ。あの『なんてね』が冗談じゃないことぐらい、私にだってわかるんだから。
いつまで経っても子供っぽい私が虎之助のそばに居て、果たして彼に何がしてあげられるんだろうか……と考えたとき、いまだにすぐ答えが見つからない。
それでも、どんなに役に立たなくても、やっぱり虎之助の隣にいたいと思うのは私のワガママ?なんて思ってしまう自分もいる。
「変な顔してどうした? また考えてもどうにもならないことでも考えてたんでしょ?」
さすが、虎之助。私のことを、よく分かってらっしゃる。でも、
「変な顔っていうのは余分。でもその変な顔した私のことが、虎之助は好きなんでしょ?」
ちょっと憎まれ口を叩いてみても、虎之助にかかれば、
「さあ、それはどうだろうな」
なんて、ニヤリと片方の口角上げてしたり顔。