敏腕社長に拾われました。

「なんか今の智乃、武士みたいでカッコいいね」

「それを言うなら、虎之助って名前のほうが、そっぽど時代劇っぽくってカッコいいじゃない」

ぷぷぷ、言ってやった。なんかスッキリ。

勝ち誇った顔で横を見ると、面白くなさそうな虎之助の顔。

誰があなたとなんて……。

うん。一緒に暮らしたくなんてないよ。でも虎之助の提案を受け入れなかったら、私が路頭に迷うことは決定的なわけで。勢いで『断る』なんて言っちゃったけど、これはちょっと早まったことしたかも。

そう気づくと、いまさら遅いかもしれないけれど、虎之助に向ってニコッと営業スマイル。

「何、その作り笑顔は」

ちぇっ、やっぱりバレたか。でもここまで来たら、背に腹は代えられない。

虎之助がどんな人かは分からないけれど、ここは彼の出してくれた提案を飲んだほうが賢いような気がする。

一緒に暮らすったって、ここは高級マンションの一室。部屋もたくさんあるだろうし、同じ布団で一緒に寝るってわけじゃない。いくら虎之助がわけのわからない人でも、いきなり襲ってくることはないよね?

虎之助だけに『ガオーッ』てさ。

うん、たぶん。そう言えば、さっき勝手にキス、されたけど。うん、たぶんきっと大丈夫……。

虎之助に見せていた営業スマイルが、どことなく引きつってくる。



< 24 / 248 >

この作品をシェア

pagetop