敏腕社長に拾われました。
「なんか今の智乃、武士みたいでカッコいいね」
「それを言うなら、虎之助って名前のほうが、そっぽど時代劇っぽくってカッコいいじゃない」
ぷぷぷ、言ってやった。なんかスッキリ。
勝ち誇った顔で横を見ると、面白くなさそうな虎之助の顔。
誰があなたとなんて……。
うん。一緒に暮らしたくなんてないよ。でも虎之助の提案を受け入れなかったら、私が路頭に迷うことは決定的なわけで。勢いで『断る』なんて言っちゃったけど、これはちょっと早まったことしたかも。
そう気づくと、いまさら遅いかもしれないけれど、虎之助に向ってニコッと営業スマイル。
「何、その作り笑顔は」
ちぇっ、やっぱりバレたか。でもここまで来たら、背に腹は代えられない。
虎之助がどんな人かは分からないけれど、ここは彼の出してくれた提案を飲んだほうが賢いような気がする。
一緒に暮らすったって、ここは高級マンションの一室。部屋もたくさんあるだろうし、同じ布団で一緒に寝るってわけじゃない。いくら虎之助がわけのわからない人でも、いきなり襲ってくることはないよね?
虎之助だけに『ガオーッ』てさ。
うん、たぶん。そう言えば、さっき勝手にキス、されたけど。うん、たぶんきっと大丈夫……。
虎之助に見せていた営業スマイルが、どことなく引きつってくる。