敏腕社長に拾われました。
うぅぅ、悔しい……。
どう頑張ってもこのふたりには勝てそうもないし、今回ここに勝手に来てしまった弱みもあって強く出られないのももどかしい。
「喧嘩するほど仲がいいとはよく言うけれど、そういうことは帰ってからやってもらえるかしら」
詩織さんにからかわれて、恥ずかしさから顔が熱くなってきてしまった。
「ホント、智乃ってわかりやすい」
ポンポンと頭を撫でられて、更に熱を帯びてくる。
「放っといてよ……」
子供っぽいとわかっていても、頬をプーっと膨れてしまう。
「はいはい。じゃあ詩織さん、今日はこの辺で失礼します。また近々、仕事で」
「はい、わかりました。智乃さん、今回のことは本当にごめんなさいね。今度はゆっくりいらして。あなたなら、いつでも歓迎するわ」
詩織さんにまたしても丁寧に謝られてしまい、私も身なりを整えて頭を下げた。
「私の方こそ突然押しかけたのに、美味しい食事まで頂いてしまって。本当にすみませんでした」
私が言うのもなんだけれど、詩織さんは今でも虎之助のことが好きなのに、気丈に振る舞って私に優しくしてくれる。申し訳ない気持ちと同時に、詩織さんのそんな素敵な気持ちに、目尻に涙が滲んできた。
「智乃、何泣いてるんだよ?」
虎之助が顔を覗き込む。
「泣いてない。これは、ちょっと目にゴミが入っちゃって」
「それって、よくテレビドラマで聞くセリフだな。まあ、そういうことにしておくか」
虎之助はそう言うと軽くあしらうように私の肩を抱き、そのまま車の助手席に乗せると自分の運転席に乗り込み車を走らせた。