敏腕社長に拾われました。
山梨からだと、虎之助のマンションまで二時間くらいだろうか。
これがドライブデートなら、あーでもないこーでもないとくだらない話をしながら楽しい時間を過ごしていたと思う。でも今日は、そんな雰囲気になるはずもなくて。車を運転しだしてからひと言もしゃべらない虎之助に恐怖さえ感じて、『私この二時間で息絶えるかもしれない……』なんて窓の外の景色を眺めながら何度目かの大きなため息を漏らした。
「何? 気分でも悪いの?」
わっ! やっと喋ってくれた!
嬉しくなって大慌てで虎之助の方を向いたけど、その顔はムスッと怒り顔。しかも虎之助の口から続けて出た言葉は、「大事な車なんだから、車内で吐くなよ」だって。
それが最愛の彼女にいう言葉? さすがに脳天気な私でも、シュンと元気がなくなっちゃうよ。
「はい、吐かないよう気をつけます」
そう言うと、また窓の外に目線を戻す。
虎之助が怒るのはごもっともなこと。勝手な行動をして怒らせたのは私だし、その点については反省してる。だから私なりに、反省の意味も込めておとなしくしてるっていうのに。
そこまで怒る必要ある?
帰りの車の中でラブラブムードになるとは思ってなかったけれど、こんな居心地が悪くなってしまうとは……。
こんなことなら、ひとり電車で帰れば良かった。